節分の鬼
根の谷川墓苑の佐藤です。
少し過ぎてしまいましたが、節分とお墓にまつわる昔話をご紹介します。
むかし、一人ぼっちのおじいさんがいました。
奥さんと子供と死に別れ、毎日ため息ばかりついておりましたので友達も逃げていき、とうとう一人ぼっちになってしまいました。
家族もなく、友達もなく、仕事もないおじいさんは毎日毎日何時間もお墓の前で「こんなになって生きていても仕方ない。どうして先に逝ったんだ。早く迎えに来ておくれよ」とぶつぶつ呟くのが日課でした。
そして、家に帰るとお酒です。
ある日のお墓参りの帰り、あちこちから「鬼は外〜、福は内〜」と楽しそうな声が聞こえます。
でも、一人ぼっちのおじいさんはふてくされ、家に帰ってまたお酒を飲みます。
ところが、周りが楽しくしている時は特に一人でいる事がこたえます。
そんなおじいさんの耳に「鬼は外〜、福は内〜」という楽しそうな声が突き刺さってきます。
家族でいる喜びや暖かさを見せつけるように…
おじいさんは段々腹が立ってきました。
そして「なにが『鬼は外、福は内』だ!幸せそうにしやがって!こっちなんか『鬼は内』だ!そうだ!どんどん来るがいい!鬼は内!鬼は内!鬼は内!」
すると、家の扉が開いて「お呼びになりましたか?」
赤いのがひょっこり顔を出しました。
「お、お前は何じゃ」「わたし、鬼です」「鬼が何の用じゃ」「今日は節分で、どこへ行っても鬼は外と追い出されて、困っていたんです。でも、鬼は内とおっしゃったから『これはありがたい』という事でお訪ねしたんですよ」
おじいさんは気を抜かれ「ああ…それは大変でしたな…まあ上がって下さい。年寄りの一人暮らしでロクなものはありませんが、酒なんか、もうちょっと用意があれば良かったんだが…」「酒でしたらありますよ!おおーい、お前たち!」
鬼が外に呼びかけると「どうも」「お邪魔します」青、黄、緑、大きいの、小さいの、色々な鬼がゾロゾロ入ってきました。
早速宴会が始まり、鬼達はすぐに酔っ払い、歌ったり踊ったり…おじいさんも段々楽しくなって、一緒に踊りだしました。
宴会は一晩中盛り上がり、次の朝鬼達は来年の節分もまた来ると約束して帰っていきました。
その日もおじいさんは墓参りに行きました。
でも、呟く言葉がいつもと違いました。
「しばらくは頑張って生きてみることにしたよ。そっちに行くのはちょっと遅くなりそうじゃ。来年の節分も会おうって鬼達と約束したからなぁ」
お墓参りでは、お墓に向かって語りかけたりする事があります。
辛い事、嬉しい事を語りかける事で自分の気持ちに整理をつけたり、気を落ち着かせたりするのも、お墓参りの効果かもしれません。
合掌